ぶろぐ

受かる受かる受かる

事例演習刑事訴訟法【設問4】解答例

11

 Kによる現行犯逮捕は違法であり、勾留は認められないのではないか。

1 KによるXの現行犯逮捕は適法か。

 現行犯逮捕(213条、2121項)が、憲法33条の例外とされているのは、犯罪と犯人が明白であり、誤認逮捕のおそれが低いうえ、犯人の身柄を拘束する必要性が高いからである。そこで、「現に罪を行い、又は現に罪を行い終った」(212条1項)といえるためには、逮捕者にとって犯罪と犯人が明白であること及び犯行と逮捕が時間的場所的に接着していることが必要であると解すべきである。なお、逮捕の必要性がない場合にまで現行犯逮捕を認めるのは不合理であるから、明文はないものの、逮捕の必要性も要求されると解する(裁判例)。  

 そして、現行犯人の認定にあたっては、客観的・外部的状況に加えて、補充的に被害者等のによる供述証拠を認定資料とすることは許されると解する(折衷説)。

 

1)ア まず、Kは、Xによる犯行現場を現認したわけではない。

イ 客観的・外部的状況としては、Xのポケットに被害金額と同額の5万円があったことだけであり、かかる事実は特段不自然なものとはいえない。また、現金は流動性が高いから、必ずしもXのポケットにあった5万円が被害物品である5万円と一致するものということはできない。そうすると、未だ、Kにとって犯罪と犯人が明白であるとは認められない。(客観)

ウ そこで、Kは、X事情聴取においてVが供述した犯人の人相風体と似ていることと、Vは「Xが犯人で間違いない」と供述していることを根拠に現行犯逮捕をしているが、かかる根拠はいずれもVの供述に基づくものである。(被害者の供述)

 前述のように明白性を基礎付ける決定的な事実が存在しない以上、被害者として犯行を現認したVによる供述が決定的な資料とならざるを得ない。しかし、公判手続での慎重な事実認定における場面とは異なり、現行犯逮捕という緊迫した状況の下では、逮捕者が被害者の供述の信用性を瞬時に判断することは極めて困難である。したがって、被害者の供述が決定的であってそれがなければ明白性が肯定できないような場合には、明白性は認められないというべきである(

2)さらに、事件の2時間後に、犯行現場から8キロメートル離れた場所で逮捕しており、犯行と逮捕の時間的場所的接着性があるとはいえない。(

3)そして、逮捕の必要性とは、逃亡又は罪証隠滅のおそれがあることをいうが、Xがこれらを行おうとしているという事情はない。

4)以上より、「現に罪を行い、又は現に罪を行い終った」とはいえない。

5)さらに、2122各号該当性は認められないから、準現行犯人にも当たらない。

 よって、Kによる逮捕は違法である。

 

2 では、勾留は違法となるか。

1)まず、2071項の「前3条の規定による」との文言から、勾留には逮捕が先行する必要がある(逮捕前置主義)。そして、逮捕の不服申立手段のない現行法の下においては、逮捕についての司法審査も勾留段階で一括してなされるべきである点、司法の廉潔性、将来の違法捜査抑止の点から、違法な逮捕に続く勾留請求を認めることは妥当ではない。

 もっとも、軽微な違法の場合でも、常に勾留請求を認めないとすると、釈放後に再び逮捕されることで、かえって身体拘束期間が長引き、被疑者の不利益となる。

 そこで、逮捕手続に重大な違法が認められる場合には,勾留請求を却下すべきである。

2)本件をみると、KXに対してした現行犯逮捕は、その要件を充足していないにもかかわらず行ったものであるから、現行犯逮捕を規定した213条の趣旨に反するものであって、令状主義を忘却する重大な違法が認められる。

 なお、強盗罪は「長期3年以上の懲役」であり、「急速を要し」ていたといえるから、緊急逮捕210条)の実体的要件は満たしていたといえる。しかし、Kが逮捕後に直ちに令状請求したという事情は認められない。緊急逮捕は、その直後に令状審査が行われることを条件に認められるものであるから、事後の令状審査がなされないことは、被疑者の人権保障に関わる重大な違法に当たる。

 したがって、勾留は違法となる。

3 よって、令状裁判官は、勾留請求を棄却すべきである。

 

22

 検察官は、先行の逮捕手続きに違法があったことを認め、Xを一旦釈放したのちに、同一被疑事実により再逮捕をしようとしている。では、違法逮捕後の再逮捕は認められるか。

 このような場合、再逮捕を認めると、違法な逮捕を助長するおそれがあるので原則として認めるべきではない。ただし、実体的真実発見の要請から、先行する逮捕の違法が極めて重大とはいえない場合には、例外として再逮捕が許されと解する。もっとも、全体として先行の逮捕から再逮捕後の勾留請求まで72時間を超えないことが必要である(2031項、2051項、2)

 本件をみると、上述のように、違法な現行犯逮捕の時点で緊急逮捕の実体的要件は満たしていたのであり、検察官は逮捕の種類の選択を誤ったに過ぎない。したがって、逮捕の違法が極めて重大とはいえない。

 したがって、先行の逮捕から再逮捕後の勾留請求まで72時間を超えないならば、再逮捕は許容される。

以上