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事例演習刑事訴訟法【設問11】解答例 おとり捜査

 警察官Kは、SをしてXに対して覚せい剤の注文をさせ、X覚せい剤を所持してホテルに現れたところを現行犯逮捕している。かかる捜査手法は、いわゆるおとり捜査として違法ではないか。

1 まず、上記捜査は強制処分にあたるか。

 「強制の処分」(1971項但書)とは、強制処分法定主義と令状主義(憲法35条、2181)による二重の制約に服させる必要があるほどの人権侵害のおそれが高い処分であると解すべきである。そのように解さないと、捜査の柔軟性を害するからである。そこで、「強制の処分」とは、個人の明示又は黙示の意思に反し、重要な権利利益を制約する処分をいうと考える。

 本件をみると、たしかに犯行を行うように働きかけられてはいるが、犯行の意思決定自体はX自身が行なっているのだから、Xの意思に反するものとはいえない。

 したがって、強制処分には当たらない。

2 もっとも、捜査機関が犯罪を実行させるように働きかける活動であることから、何らかの法益を侵害するおそれがあるため、捜査比例の原則(1971項本文)は厳格に適用される。

 そこで、少なくとも、直接の被害者がいない薬物犯罪等の捜査において通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難である場合に機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象に、おとり捜査を行うことは、1971項に基づく任意捜査として許容される。

 本件をみると、X覚せい剤取締法違反の嫌疑がかけられていおり、直接の被害者がいない薬物の捜査に当たる。また、Kは、Xの現在の住所や立ち回り先、覚せい剤の隠匿場所を捜査したが、これを把握できていないから、通常の捜査方法のみでは、不法所持や密売の証拠を収集し、犯罪を摘発することが困難といえる。さらに、X覚せい剤十キログラムの大口売却先を探しているという確度の高い情報が得られているから、Xは機会があれば覚せい剤の密売を行う意思があったと考えられる。

 したがって、上記捜査は、任意捜査として許容される。

 よって、上記捜査は、適法である。

以上