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司法試験H24刑事訴訟法 解答例

1 設問1

1 捜査について

 Kは、T株式会社の事務所に運び込まれた乙宛の荷物を、乙の承諾なく開封している。荷物の開封は、捜索として強制処分にあたるところ、甲に対する捜索差押許可状の効力が及んでいなければ、かかる捜索は違法となる。

1)まず、捜索中に配達された荷物に、令状の効力は及ぶか。

 配達された荷物に対する捜索は、新たな管理権の侵害を生じさせるものでないため、新たな令状によることは不要である。また、裁判官は、令状の有効期間内を通して、証拠存在の蓋然性を審査していると考えられるため、令状提示時点で捜索場所に存在する物に対してのみ、令状の効力が及ぶと考えるべきでない。したがって、捜索中に配達された荷物を捜索することができる。

 本件でも、乙宛の荷物が捜索中に配達され、従業員Wがこれを受領しているから、乙宛の荷物にも令状の効力が及ぶ。

2)本件捜索差押許可状では、被疑者は甲とされており、乙は捜索対象者ではない。そして、乙宛の荷物は、乙のプライバシー権が及んでいるものであり、管理権は甲ではなく乙にあるといえる。そこで、乙宛の荷物について、令状の効力が及ぶには、「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況」(2221項、1022項)が必要となる。

 本件をみると、乙宛の荷物をWから受け取った際に、甲は乙に対し「受け取ってしまったものは仕方がないよな。」などと不審な発言をしている。そして、Kがどういう意味かと尋ねたところ、甲と乙はいずれも無言であった。さらに、甲の携帯電話に、丙という人物から、ブツを送るから甲と乙の二人でさばくようにという内容のメールが送られていた。これらの事情から、乙宛の荷物の中には、覚せい剤が入っている蓋然性が高かったといえる。

 したがって、「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況」が認められ、令状の効力が及ぶ。

 以上より、捜査は、甲に対する捜索差押許可状による捜索として、適法となる。

 

2 捜査について

1)捜索差押許可状に基づく捜索としての適法性

 Kは、乙の荷物が入っているロッカー内を捜索している。かかる捜索は、甲に対する捜索差押許可状による捜索として適法か。

 ロッカーは、T会社の事務所にある以上、社長である甲が管理しているものとも思えるが、ロッカーの中の荷物は乙の物が入っていることが明らかであるから、ロッカー内には乙のプライバシー権が及んでいるものといえ、ロッカー内の物の管理権は乙にあるといえる。

 したがって、前述と同様に、ロッカーに令状の効力が及ぶには、「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況」(2221項、1022項)が必要となるが、Kは乙の携帯電話や手帳等を探しているところ、これらがロッカー内に存在する蓋然性は高いとはいえず、要件を満たさない。

 したがって、捜索差押許可状に基づく捜索としての上記捜索は、違法となる。

 

2)現行犯逮捕に伴う捜索としての適法性

 乙は、営利目的での覚せい剤所持の事実により現行犯逮捕(213条、212条)されている。そこで、逮捕に伴う捜索(2201項)として、乙のロッカーを捜索することはできるか。

 逮捕に伴う捜索・差押(2201項)が、令状主義(憲法35条)の例外として許容される根拠は、逮捕の現場には、被疑事実に関する証拠の存在する蓋然性が高いことから、これを保全する必要性が高いこことにある。そして、かかる根拠から、「逮捕の現場」とは、逮捕場所と同一の管理権の及ぶ範囲内の場所及びそこにある物をいう。

 本件を見ると、乙の逮捕場所はY株式会社事務所であり、乙のロッカーは、その事務所内にある以上、同一の管理権の範囲内の場所にある。したがって、「逮捕の現場」にあたる。

 次に、捜査を行なったのは乙の逮捕の直後であり、逮捕との時間的近接性が認められるから、「逮捕する場合」にあたる。

 したがって、捜索は、現行犯逮捕に伴う捜索としての適法となる。

 

3Kが、マスターキーを使ってロッカーを解錠した行為は適法か。

 捜索・差押えの目的を達成するために必要かつ相当な処分は「必要な処分」(2221項、1111項)として許容されるところ、ロッカーを乙が解錠しない以上、Kが解錠する必要性が認められ、鍵を壊すよりも穏当であるから、相当性もある。

 したがって、適法である。

 

2 設問2

 裁判所は、単独犯の訴因で、共同正犯の事実を認定しているところ、訴因と認定事実にずれが生じている。かかる認定は、不告不理の原則に反し、違法ではないか。訴因変更の要否が問題となる。

 ここで、審判対象は、検察官の主張する具体的犯罪事実たる訴因(訴因対象説)であるから、事実に変動があれば訴因変更が必要と考える。(事実記載説)

 そこで、まず審判対象画定に必要な事実に変動があった場合に訴因変更が必要であり、次に被告人の防御にとって重要な事実の変動は、それが訴因に明示された以上、原則として、訴因変更が必要となる。ただし被告人の防御の具体的状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものでなく、かつ、認定事実が訴因と比べて被告人にとり不利益であるといえない場合には、例外的に訴因変更は不要となる。45

 本件をみると、単独犯と共同正犯は、同一構成要件内の行動態様の違いがあるに過ぎないとも思える。しかし、共同正犯は、それを定める規定により初めて処罰されるし、適用する罰条に、刑法60条が加わる。そこで、共謀の事実は「罪となるべき事実」そのものであり、単独犯から共同正犯の変更は、審判対象画定に必要な事実の変動といえる。

 したがって、訴因変更が必要となる。

 よって、訴因変更を経ない上記の認定は、違法となる。

以上