ぶろぐ

受かる受かる受かる

事例演習刑事訴訟法【設問27】弾劾証拠 解答例

11)  

 検察官は、甲の公判廷供述の証明力を争うため、乙の供述録取書の取調べを請求している。そこで、乙の供述録取書は、弾劾証拠として、328条により証拠能力が認められないか。乙の供述録取書は他者矛盾供述に当たるところ、328条によって許容される証拠は、自己矛盾供述に限られるかが問題となる。

 同条の趣旨は、自己矛盾供述の存在自体を立証することで、その者の公判供述信用性減殺することを認めることある。つまり、非伝聞である自己矛盾供述を証拠として許容することを注意的に規定したものであり、伝聞例外の規定ではない。そのため、他者矛盾供述が弾劾として機能する場合、その内容たる事実裁判官の心証上が認められたことになるところ、弾劾証拠は補強証拠であるのに実質証拠として機能することとなり、(実質証拠ならば厳格な証明を要するので)伝聞法則が骨抜きとなる。したがって、同条により許容されるのは、自己矛盾供述に限られる。
 したがって、弾劾証拠として乙の供述録取書の証拠能力を認めることはできない。

 

*問題に「証明力を争うために」という記載があるところ、自己矛盾供述を弾劾目的で使用する場合はそもそも伝聞法則の適用はないから328条の検討だけで良い。

 

22

1 前段

 甲の捜査段階における供述を司法警察員Lが記載した捜査報告書(以下、「本件捜査報告書」という。)は、弾劾証拠として328条により証拠能力が認められるか。

1)まず、本件捜査報告書は甲の供述を内容とするものであり、自己矛盾供述に当たるから、328条により許容される証拠の範囲に含まれる。

2)もっとも、本件捜査報告書には、甲の署名・押印がないが、かかる書面についても328条により証拠とすることができるか。

ア まず、自己矛盾供述の存在も補助事実1つであり、補助事実刑罰権の存否及びその範囲を画する事実ではないが、厳格な証明を要する実質証拠証明力に大きな影響を及ぼすから、厳格な証明を要する間接事実と同様に扱われるべきである。したがって、補助事実にも厳格な証明が必要となるから、その一つである自己矛盾供述についても厳格な証明が必要となる。

 そして、供述録取書には、供述者の供述録取者に対する供述過程(第一供述過程)と、供述録取者がこれを書面にする過程(第二供述過程)があり、いずれも反対尋問にさらされていないから二重の伝聞性がある。そして、328条が対象とするのは第一供述過程のみであるから、第二供述過程の録取の伝聞性の問題は残る。

 したがって、328条により証拠として許容されるには、供述者の署名・押印が必要である(刑訴法3221項)。

イ 本件を見ると、本件捜査報告書は甲の署名・押印がないから、本件捜査報告書は厳格な証明がなされているとはいえない。

 よって、裁判所は、本件捜査報告書を証拠として採用することができない。

 

2 後段

 検察官が甲の証言後に甲を取調べて録取した供述録取書(以下、「本件供述録取書」という。)は、弾劾証拠として328条により証拠能力が認められるか。

1)まず、本件供述録取書は甲の供述を内容とするものであり、自己矛盾供述に当たるから、328条により許容される証拠の範囲に含まれる。

2)もっとも、本件供述録取書は、弾劾の対象となる甲の公判廷における証言がなされた後に作成されているが、かかる場合にも、328条により証拠とすることができるか。

 ここで、検察官面前調書については32112号後段が明文で「前の供述」に限定しているのに対し、328条にはこのような文言はない。また、憲法372項の証人審問権の保障は補助事実にまでは及ばないため、自己矛盾供述が公判廷での証言に先行することを求める必要はない。さらに、自己矛盾供述の存在自体は非伝聞であるから、自己矛盾供述の時期を限定する理由はない。したがって、公判廷における証言後にされた自己矛盾供述であっても、328条により証拠として採用できる。

 したがって、本件においても、裁判所は、本件供述録取書を証拠として採用することができる。

 

 

33

 司法警察員Mが録音したICレコーダー(以下「本件ICレコーダー」という。)は、328条により証拠能力が認められるか。

 まず、ICレコーダーに録音された甲の供述は、上述と同様に自己矛盾供述であるから、本件ICレコーダーは328条により許容される証拠の範囲に含まれる。

 そして、ICレコーダーは、上述の供述録取書と同様に、二つの供述過程があるが、第二の供述過程については伝聞法則が適用されない。なぜなら、ICレコーダーについては、録取対象と記録内容の同一性は機械的正確さにより保証されているから、非供述証拠となるからである。

 したがって、本件ICレコーダーは、328条により証拠能力が認められる。

 よって、本件においても、裁判所は、本件ICレコーダーを証拠として採用することができる。

以上