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予備R 1刑法 解答例

 

1 本件土地をAに売却した行為に、業務所横領罪(252)が成立するか。

 横領罪と背任罪は、委託信任関係を保護法益とする点で重なり合いが認められ、法益侵害が一つであるから、両罪の関係は法条競合となる。そこで、罰金を選択し得る背任罪よりも法定刑の重い横領罪の成否から検討すべきである。

1 「業務」とは、社会生活上の地位に基づき反復継続して行われる事務のうち、他人の物の占有を内容とするものをいう。甲は、不動産業者であるから、不動産という財産の占有を反復継続して行っている。したがって「業務」にあたる。

2 「占有」とは、濫用のおそれのある支配力を本質とするものであって、これには、事実的支配のみならず、法律的支配も含まれる。また、明文はないが、占有離脱物横領罪(254条)との区別から、占有は委託に基づくことを要する。

 甲は、本件土地の登記済証や委任事項欄の記載のない白紙委任状を有しているから、不動産の処分行為が可能であったのだから、法律的支配が認められる。また、Vから抵当権設定の依頼に基づき占有するに至っている。

 したがって、Vとの委託に基づく「占有」が認められる。

3 そして、本件土地はVの所有物であるから「他人の物」にあたる。

4 「横領」とは、委託の任務に背いて、他人の財物につき権限がないのに所有者しかできないような処分をする意思たる不法領得の意思を発現する行為をいう。そして、不動産売買においては、登記を具備して初めて確定的に権利が移転したといえるから、登記がされた時点で、不法領得の意思が発現すると解する。

 本件で、甲は未だAに対し所有権移転登記をしていないから、「横領」 にあたらない。

 したがって、横領罪には未遂処罰規定がないため、上記行為に未遂が成立することはない(44)

 

3 上記行為に、背任罪(247条)が成立するか。

 甲は、Aから本件土地の抵当権の設定を依頼されており「他人のためにその事務を処理する者」にあたり、「自己」の利益を図る目的で、本件土地を売却するという「任務に背く行為」をしている。

 しかし、上述のように、未だ登記がなされておらず確定的に所有権が移転していない以上、「財産上の損害」は生じていない。 ?背任罪の既遂時期

 したがって、背任未遂罪が成立する(250条、247条)。

 

4 売買契約書二部に署名した行為に、私文書偽造罪及び同行使罪(1591項、1611項)が成立しないか。

1)まず、真正文書として他人に認識し得る状態に置く目的であったと考えられ、「行使の目的」がある。

2)「偽造」とは、作成者と名義人の人格的同一性を偽ることをいい、文書の作成者とは、文書に意思を表示した者、名義人とは、文書から認識される意思の主体をいう。

 本件で、甲は、文書に「V代理人甲」と署名しているところ、文書に意思を表示したのは甲であるから、作成者は甲である。そして、代理・代表名義を冒用して作成された文書について、文書により表示された意思内容に基づく効果は本人に帰属するのであるから、名義人は本人であると解する(判例)。

 したがって、名義人と作成者の人格的同一性を偽ったといえる。

3Aに文書を渡し、Aが申請文書として認識し得る状態に置いているから、「行使した」といえる。

4)よって、私文書偽造罪及び同行使罪(1591項、1611項)が成立する。

 

5 甲がVの首をロープで絞め、その後に海に落とした行為について

 首を絞めた行為(以下「第一行為」という。)と海に落とした行為(以下「第二行為」という。)は、殺意の有無につき意志の連続性に欠けるから、一体の行為とみることはできない。

1 第二行為は、保護責任者遺棄致死罪(218条、219条)の客観的構成要件に該当する。しかし、甲には死体遺棄罪(190条)の故意しかない。そこで、382により保護責任者遺棄致死罪の故意は阻却される。では、死体遺棄罪が成立するか。

 本件で、これらの犯罪において、客体は生きている人間か死者かで異なっており、保護法益は、生命・身体と、国民の宗教感情であるから、構成要件が実質的に重なり合うとはいえない。したがって、甲には死体遺棄罪の客観的構成要件該当性は認められず、同罪は成立しない。もっとも、第二行為は、 Vの死亡に対する予見義務違反、結果回避義務違反といえるから、「過失」が認められる。したがって、過失致死罪210条)が成立する。

2 Xは殺意をもって首を絞めているから、殺人罪の実行行為がある。

(1)では、因果関係があるか。

 本件で、たしかに直接の死因を作ったのは第二行為であり、介在事情の寄与度は大きい。しかし、殺害行為を行なった者が証拠隠滅しようと遺棄することはよくあることであり、第一行為の中に海中に遺棄されて死亡する危険も含まれているといえ、第一行為の危険が結果へと現実化されたといえる。

(2)次に、主観と客観の差異が、法的因果関係の範囲内にとどまっている場合には、上記非難が可能であり、故意が認められると解する。

 本件で、現実の因果経過と甲の認識していた因果経過はともに殺人罪の構成要件に該当し、法的因果関係の範囲内にある。したがって、故意は阻却されない。

 よって、第一行為に殺人罪が成立する。 

 

6 以上より、背任未遂罪、私文書偽造罪、同行使罪、過失致死罪、殺人罪が成立し、は手段と目的の関係にあるので牽連犯となり(541項後段)、Vの生命という同一法益に向けられたものとしてに吸収され包括一罪となり、これらは併合罪45条)となる。

以上