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予備H29民法【解答例】 94②・110類推、原賃貸借の合意解除後の転貸借

親ガメ(賃貸借)が合意解除された後の子ガメ(転貸借)の問題、みんな気になると思うのに、改正民法でも明文がないのはなぜなんでしょう?不思議です、、。

 

1 設問1

 Cは、Aに対し、所有権に基づく妨害排除請求権としての本件登記抹消登記手続請求をすると考えられる。ここで、Cの請求が認められるためには、Cが甲建物の所有権を有している必要がある。

1 Cは、平成231213日、Bから、甲建物を500万円で購入しており、甲建物の所有権を取得したと主張する。しかし、BC間の売買に先立ち、Aは、甲建物を1000万円で購入し、その後に、譲渡担保を登記原因とする所有権移転登記を具備している。

 真実には売買を登記原因とするべきであったのに、譲渡担保を登記原因としているところ、Aが具備した登記は実体的権利関係に合致しないから、Aの登記の有効性が問題となる。もっとも、譲渡担保であってもAに所有権が移転することには変わりがなく、Aの登記はこいう建物の所有権がAにあるという権利関係を公示するに足りるものである。したがって、かかる登記も有効と考える。*実体的権利関係に合致しない登記も有効

 そこで、Aは、登記を具備した時点で、確定的に甲建物の所有権を取得しているから、Bは無権利者となる。したがって、かかるBと契約をしたに過ぎないCは所有権を取得することができない。

2 もっとも、Cは、Aのために譲渡担保が設定されているという外観を信頼して、取引に入っている。そこで、Cは、自己が942項の「第三者」として保護されると主張すると考えられる。

 本件ではAB間に通謀は無いため、同条を直接適用することはできない。しかし、同条は、(虚偽の外観作出につき本人に帰責性がある場合に、かかる外観を信頼した第三者を保護するという)権利外観法理の一環であるから、虚偽の外観、虚偽の外観の作出に対する真の権利者の帰責性、三者の信頼があれば、同条の類推適用が認められ、第三者が保護される。

 本件を見ると、A名義の登記という虚偽の外観が存在する()。次に、Aは、BがAに甲建物を譲渡する旨の譲渡担保設定契約書と、譲渡担保を登記原因とする甲建物についての所有権移転登記の登記申請書に署名・押印しており、虚偽の外観作出に寄与しているところ、帰責性が認められる()。

 次に、942項は第三者の保護要件を善意で足りるとしているが、類推適用の場合には、直接適用の場合より本人の帰責性は小さい。そこで、110条の類推適用により、権利外観法理における原則の通り、第三者の保護要件は善意無過失とするべきである。

 本件では、CAが譲渡担保権者でないと知らなかったことにつき過失がある()。

 したがって、Cは、「第三者」として保護されない。

 よって、Cの上記請求は認められない。

 

2 設問2

1 CE間の法律関係

 CD間の賃貸借は合意解除されているから、Cは合意解除の効果をEに対抗することはできない(6131項本文)。そこで、賃貸人と転借人の法的関係が問題となる。

 ここで、賃貸人と転借人には直接の法的根拠がない以上、賃貸人は賃料相当額を不当利得(703)として請求できるようにも思えるが、これでは法律関係が複雑となる。そこで、転借人と賃貸人の間に、転貸借契約がそのまま移行すると解する。このように解しても、転貸人は転貸借関係からの離脱を望んでいるし、賃貸人もそもそも合意解除を対抗できないのだから、当事者に不利益は生じない。*直接関係肯定説

 本件においても、DE間の転貸借契約が、Cを賃貸人、Eを賃借人として、CE間に承継されると解する。

2 CEに対する請求

 上述の理由から、Cは、Eに対し、従前のDE間契約におけるのと同様に月15万円の賃料を請求できるにとどまる。

3 ECに対する請求

 Eが甲建物の修理のために支出した30万円は、物の保存・管理に必要な費用であり、「必要費」(608)に当たる。そこで、Eは、必要費償還請求権(6081項)の行使として、30万円の修補費用の請求をしていると考えられる。

 まず、CD間の転貸借契約においては、通常の必要日はDが負担するとの特約が付されているが、新たに成立する賃貸借契約はDE間契約が CE間に承継されたものであるから、CD間の特約は承継されない

 次に、必要費を支出した時点で「直ちに」償還請求権が発生するから、「賃貸人」とは当時の賃貸人を指し、新賃貸人はこれに当たらないとも思える。しかし、同項の趣旨は、賃借人の利益に配慮する点にあるから、新賃貸人に対し償還請求することを否定する理由はない。

 したがって、上記請求は認められる。

以上

 

司法試験H29刑事訴訟法 解答例

1 設問1

1 Qらが甲方の窓のガラスを割って解錠した行為は適法か。

 ここで、捜索・差押えの目的を達成するために必要かつ相当な処分は「必要な処分」(2221項、1111項)として許容される。

 本件をみると、覚醒剤は水に流すなどして証拠隠滅が容易なものであるから、呼び鈴を鳴らしてすぐに甲方に入る必要があった。また、甲は玄関のドアを開けて入るがドアチェーンをかけたままであり、甲の協力が得られる可能性は低く玄関から入ることは困難であったから、玄関以外の場所から入る必要があった。さらに、甲は覚せい剤取締法違反の前科3犯を有する者であり、諸般と比べ捜査に関する経験を有していると考えられ早急に捜査を進める必要があった。そして、窓ガラスの一部を割ったに過ぎず、甲に傷害を負わせたという事情はないから、かかる手段は相当なものといえる。

 したがって、「必要な処分」として適法である。

2 次に、Qらが、令状の呈示をする前に、令状の執行(捜索差押えの実施)をしたことは適法か。

 ここで、110条の趣旨は、対象者の受忍限度を明らかにすることと、警察権力の恣意的濫用を防止しする点にある。そのため、捜索差押令状の呈示は令状執行(捜索・差押えの実施)前に行われるのが原則である。もっとも、捜索・差押えの実効性確保のために必要であり短時分の先行にとどまるなどを相当性が認められれば、令状呈示前であっても「必要な処分(1111)として許容される。

 本件をみると、上述のように覚せい剤は証拠隠滅が容易なものであり、令状を事前に呈示していたのでは証拠が隠滅されるおそれがある。また、甲方に立ち入った後、直ちに令状を呈示しているから、相当性がある。

 したがって、「必要な処分」として許容される。

3 Pが、乙のハンドバックを取り上げ中身を捜索した行為は適法か。

 ここで、同居人は、被処分者と何らかの関係があり、被疑事実についても知っている可能性が高いため、その携帯物を捜索する必要性が高いとえる。また、それが捜索場所に存在する以上、居室の備品と同視し、「場所」に包摂されていると考えることができる。したがって、同居人の所持品についても令状の効力が及ぶ(判例)。

 本件においても、乙は甲と同居する内妻であり、乙のハンドバックを捜索する必要性は高い。また、乙のハンドバックは、居室の備品と同視できる。

 したがって、上記行為は適法である。

4 Qが、丙のズボンの右ポケットに手を差し入れ、そこから5枚の紙幣を取り出した行為は適法か。

 ここで、刑訴法は、「場所」と「人の身体」を区別して規定している(2221項本文、1021)。また、身体の捜索によって侵害される人身の自由プライバシーの利益は、場所に対するそれとは異質であって、前者を後者に包摂させることができない。そのため、場所に対する捜索許可状で、人の身体を捜索することはできないのが原則である。

 もっとも、捜索・差押えの目的を達成するために必要かつ相当な処分は「必要な処分」(2221項本文、1111項)として、許容される。そこで、第三者もとはその場所にあった証拠物隠匿した疑いが十分にあるときは、「必要な処分」として、妨害排除現状回復のために必要かつ相当な処分をすることができる。

 本件をみると、たしかに、丙は、ズボンの右ポケットが膨らんでおり、時折ポケットに手をふれ気にする素振りを見せている上、落ち着きなく室内を歩き回るなど不自然な行動をとっていることから、なにか警察に見つかりたくないものを所持していると考えられる。しかし、丙は、Qらがベランダから甲方に入った当初からポケットに手を入れていたのであり、もとはその場所にあった証拠物をポケットに隠したというような事情はない。

 したがって、証拠物を隠匿した疑いが十分にあるとはいえず、「必要な処分」とは言えない。

 よって、上記行為は違法である。

 

2 設問2

1 小問1

 証拠124は、328条により証拠能力が認められないか。328条により許容される証拠の範囲が問題となる。

 ここで、同条の趣旨は、自己矛盾供述の存在自体を立証することで、その者の公判供述信用性減殺することを認めることある。つまり、非伝聞である自己矛盾供述を証拠として許容することを注意的に規定したものであり、伝聞例外の規定ではない。そのため、他者矛盾供述が弾劾として機能する場合、その内容たる事実裁判官の心証上が認められたことになるところ、弾劾証拠は補強証拠であるのに実質証拠として機能することとなり、伝聞法則が骨抜きとなる。したがって、同条により許容されるのは、自己矛盾供述に限られる。

 

1)証拠1

 まず、証拠1は、甲の供述を内容とするものであり自己矛盾供述であるから、328条により許容される証拠である。

 もっとも、甲の署名・押印がないが、かかる書面についても328条により証拠とすることができるか。

ア まず、自己矛盾供述の存在も補助事実1つであり、補助事実刑罰権の存否及びその範囲を画する事実ではないが、厳格な証明を要する実質証拠証明力に大きな影響を及ぼすから、厳格な証明を要する間接事実と同様に扱われるべきである。したがって、補助事の一つである自己矛盾供述についても厳格な証明が必要となる。

 そして、供述録取書には、供述者の供述録取者に対する供述過程(第一供述過程)と、供述録取者がこれを書面にする過程(第二供述過程)があり、いずれも反対尋問にさらされていないから二重の伝聞性がある。そして、328条が対象とするのは第一供述過程のみであるから、第二供述過程の録取の伝聞性の問題は残る。

 したがって、328条により証拠として許容されるには、供述者の署名・押印が必要である(刑訴法3221項)。

イ 本件を見ると、甲の署名・押印がないから、厳格な証明がなされているとはいえない。

 よって、裁判所は、証拠1を証拠として採用することができない。

2)証拠2

 証拠2は、甲の供述を内容とするものであり自己矛盾供述であるから、328条により許容される証拠である。

 また、甲の署名・押印もなされているから、厳格な証明がなされているといえる。

 よって、裁判所は、証拠2を証拠として採用することができる。

3)証拠4

 証拠4は、乙の供述を内容とするものであり他者矛盾供述であるから、328条により許容される証拠にあたらない。

 よって、裁判所は、証拠4を証拠として採用することができない。

 

2 小問2

 328条の「証明力を争う」には、回復も含まれるか。

 まず、「争う」の文言には減殺された証明力を回復させる場合も含むと解するのが自然である。しかし、公判供述が自己矛盾供述により弾劾された場合、この自己矛盾供述は内容の真実性を問題としない非供述証拠であるから、これを弾劾することに意味はない。また、別の機会に公判供述と一致する供述(自己一致供述)をしたことを立証すれば、供述の信用性が回復するという経験則の合理性は疑わしい。したがって、回復証拠は328条により許容されない。

 よって、裁判所は、証拠3を証拠として採用することができない。

以上

事例演習刑事訴訟法【設問27】弾劾証拠 解答例

11)  

 検察官は、甲の公判廷供述の証明力を争うため、乙の供述録取書の取調べを請求している。そこで、乙の供述録取書は、弾劾証拠として、328条により証拠能力が認められないか。乙の供述録取書は他者矛盾供述に当たるところ、328条によって許容される証拠は、自己矛盾供述に限られるかが問題となる。

 同条の趣旨は、自己矛盾供述の存在自体を立証することで、その者の公判供述信用性減殺することを認めることある。つまり、非伝聞である自己矛盾供述を証拠として許容することを注意的に規定したものであり、伝聞例外の規定ではない。そのため、他者矛盾供述が弾劾として機能する場合、その内容たる事実裁判官の心証上が認められたことになるところ、弾劾証拠は補強証拠であるのに実質証拠として機能することとなり、(実質証拠ならば厳格な証明を要するので)伝聞法則が骨抜きとなる。したがって、同条により許容されるのは、自己矛盾供述に限られる。
 したがって、弾劾証拠として乙の供述録取書の証拠能力を認めることはできない。

 

*問題に「証明力を争うために」という記載があるところ、自己矛盾供述を弾劾目的で使用する場合はそもそも伝聞法則の適用はないから328条の検討だけで良い。

 

22

1 前段

 甲の捜査段階における供述を司法警察員Lが記載した捜査報告書(以下、「本件捜査報告書」という。)は、弾劾証拠として328条により証拠能力が認められるか。

1)まず、本件捜査報告書は甲の供述を内容とするものであり、自己矛盾供述に当たるから、328条により許容される証拠の範囲に含まれる。

2)もっとも、本件捜査報告書には、甲の署名・押印がないが、かかる書面についても328条により証拠とすることができるか。

ア まず、自己矛盾供述の存在も補助事実1つであり、補助事実刑罰権の存否及びその範囲を画する事実ではないが、厳格な証明を要する実質証拠証明力に大きな影響を及ぼすから、厳格な証明を要する間接事実と同様に扱われるべきである。したがって、補助事実にも厳格な証明が必要となるから、その一つである自己矛盾供述についても厳格な証明が必要となる。

 そして、供述録取書には、供述者の供述録取者に対する供述過程(第一供述過程)と、供述録取者がこれを書面にする過程(第二供述過程)があり、いずれも反対尋問にさらされていないから二重の伝聞性がある。そして、328条が対象とするのは第一供述過程のみであるから、第二供述過程の録取の伝聞性の問題は残る。

 したがって、328条により証拠として許容されるには、供述者の署名・押印が必要である(刑訴法3221項)。

イ 本件を見ると、本件捜査報告書は甲の署名・押印がないから、本件捜査報告書は厳格な証明がなされているとはいえない。

 よって、裁判所は、本件捜査報告書を証拠として採用することができない。

 

2 後段

 検察官が甲の証言後に甲を取調べて録取した供述録取書(以下、「本件供述録取書」という。)は、弾劾証拠として328条により証拠能力が認められるか。

1)まず、本件供述録取書は甲の供述を内容とするものであり、自己矛盾供述に当たるから、328条により許容される証拠の範囲に含まれる。

2)もっとも、本件供述録取書は、弾劾の対象となる甲の公判廷における証言がなされた後に作成されているが、かかる場合にも、328条により証拠とすることができるか。

 ここで、検察官面前調書については32112号後段が明文で「前の供述」に限定しているのに対し、328条にはこのような文言はない。また、憲法372項の証人審問権の保障は補助事実にまでは及ばないため、自己矛盾供述が公判廷での証言に先行することを求める必要はない。さらに、自己矛盾供述の存在自体は非伝聞であるから、自己矛盾供述の時期を限定する理由はない。したがって、公判廷における証言後にされた自己矛盾供述であっても、328条により証拠として採用できる。

 したがって、本件においても、裁判所は、本件供述録取書を証拠として採用することができる。

 

 

33

 司法警察員Mが録音したICレコーダー(以下「本件ICレコーダー」という。)は、328条により証拠能力が認められるか。

 まず、ICレコーダーに録音された甲の供述は、上述と同様に自己矛盾供述であるから、本件ICレコーダーは328条により許容される証拠の範囲に含まれる。

 そして、ICレコーダーは、上述の供述録取書と同様に、二つの供述過程があるが、第二の供述過程については伝聞法則が適用されない。なぜなら、ICレコーダーについては、録取対象と記録内容の同一性は機械的正確さにより保証されているから、非供述証拠となるからである。

 したがって、本件ICレコーダーは、328条により証拠能力が認められる。

 よって、本件においても、裁判所は、本件ICレコーダーを証拠として採用することができる。

以上

事例演習刑事訴訟法【設問5】 一罪一逮捕一勾留 解答例

1  前段

1 Xは、既に、A事実につき常習傷害罪により逮捕拘留されているところ、常習一罪の一部をなすB事実について逮捕勾留することは、一罪一逮捕一勾留の原則に反しないか。

1一罪一逮捕一勾留の原則とは、同一の被疑事実について数個の逮捕・勾留をすることは許されないとする原則をいう。これは、明文はないものも、同一事実につき身体拘束の蒸返しを認めれば、厳格な法定拘束期間を定める(203条以下)趣旨に反することから認められる。

 そして、わが国では実体法で罪数の概念を採用し、訴因単位ではなく実体法上一罪とされる事実ごとに1個の刑罰権が生じ、一時不再理効は1罪とされる事実全てについて生じるところ、刑事訴訟法は公判手続のみならず捜査段階の手続も、刑罰権実現を目的とする手続であるから、「一罪」とは、公訴事実におけるのと同様に実体法上一罪をいう。

2)本件をみると、既に逮捕拘留されたA事実と、これと常習一罪となるB事実とは実体法上一罪にあたる

3)したがって、一罪一逮捕一勾留の原則から、改めてXを逮捕することはできないのが原則である。

2 もっとも、一罪一逮捕一勾留の例外は認められるか

 そもそも、一罪一逮捕一勾留の趣旨は、逮捕・勾留の蒸返しを防ぐため、一回の身体拘束で一罪の関係にある被疑事実の全部について、同時に捜査することを求めることにある。そこで、同時処理が不可能であった場合は、例外的に、改めて逮捕勾留することが認められると解する。そして、上記例外を広く認めると前述の一罪一逮捕一勾留の原則の趣旨が没却されるため、当初の逮捕・勾留前に発生した事実については、同時処理可能であったとみなすべきである。(観念的同時処理可能説) 

 本件をみると、B事実は、A事実についての逮捕勾留の前に発生しているため、同時処理が可能であったとみなされる。

 したがって、例外は認められない。

 よって、B事実によリXを逮捕勾留することは許されない。

 

2  後段

 常習一罪の一部をなすC事実について逮捕勾留することは、一罪一逮捕一勾留の原則に反しないかについて、前述の基準により判断する。

 C事実は、A事実についての保釈中になされた傷害行為であるところ、A事実の逮捕勾留前に発生した事実であるから、同字処理が可能であったとは言えない。

 したがって、上述の例外が認められる場合に当たり、一罪一逮捕一勾留の原則は適用されない

 よって、C事実によりXを逮捕勾留することは許される。

以上

司法試験H24刑事訴訟法 解答例

1 設問1

1 捜査について

 Kは、T株式会社の事務所に運び込まれた乙宛の荷物を、乙の承諾なく開封している。荷物の開封は、捜索として強制処分にあたるところ、甲に対する捜索差押許可状の効力が及んでいなければ、かかる捜索は違法となる。

1)まず、捜索中に配達された荷物に、令状の効力は及ぶか。

 配達された荷物に対する捜索は、新たな管理権の侵害を生じさせるものでないため、新たな令状によることは不要である。また、裁判官は、令状の有効期間内を通して、証拠存在の蓋然性を審査していると考えられるため、令状提示時点で捜索場所に存在する物に対してのみ、令状の効力が及ぶと考えるべきでない。したがって、捜索中に配達された荷物を捜索することができる。

 本件でも、乙宛の荷物が捜索中に配達され、従業員Wがこれを受領しているから、乙宛の荷物にも令状の効力が及ぶ。

2)本件捜索差押許可状では、被疑者は甲とされており、乙は捜索対象者ではない。そして、乙宛の荷物は、乙のプライバシー権が及んでいるものであり、管理権は甲ではなく乙にあるといえる。そこで、乙宛の荷物について、令状の効力が及ぶには、「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況」(2221項、1022項)が必要となる。

 本件をみると、乙宛の荷物をWから受け取った際に、甲は乙に対し「受け取ってしまったものは仕方がないよな。」などと不審な発言をしている。そして、Kがどういう意味かと尋ねたところ、甲と乙はいずれも無言であった。さらに、甲の携帯電話に、丙という人物から、ブツを送るから甲と乙の二人でさばくようにという内容のメールが送られていた。これらの事情から、乙宛の荷物の中には、覚せい剤が入っている蓋然性が高かったといえる。

 したがって、「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況」が認められ、令状の効力が及ぶ。

 以上より、捜査は、甲に対する捜索差押許可状による捜索として、適法となる。

 

2 捜査について

1)捜索差押許可状に基づく捜索としての適法性

 Kは、乙の荷物が入っているロッカー内を捜索している。かかる捜索は、甲に対する捜索差押許可状による捜索として適法か。

 ロッカーは、T会社の事務所にある以上、社長である甲が管理しているものとも思えるが、ロッカーの中の荷物は乙の物が入っていることが明らかであるから、ロッカー内には乙のプライバシー権が及んでいるものといえ、ロッカー内の物の管理権は乙にあるといえる。

 したがって、前述と同様に、ロッカーに令状の効力が及ぶには、「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況」(2221項、1022項)が必要となるが、Kは乙の携帯電話や手帳等を探しているところ、これらがロッカー内に存在する蓋然性は高いとはいえず、要件を満たさない。

 したがって、捜索差押許可状に基づく捜索としての上記捜索は、違法となる。

 

2)現行犯逮捕に伴う捜索としての適法性

 乙は、営利目的での覚せい剤所持の事実により現行犯逮捕(213条、212条)されている。そこで、逮捕に伴う捜索(2201項)として、乙のロッカーを捜索することはできるか。

 逮捕に伴う捜索・差押(2201項)が、令状主義(憲法35条)の例外として許容される根拠は、逮捕の現場には、被疑事実に関する証拠の存在する蓋然性が高いことから、これを保全する必要性が高いこことにある。そして、かかる根拠から、「逮捕の現場」とは、逮捕場所と同一の管理権の及ぶ範囲内の場所及びそこにある物をいう。

 本件を見ると、乙の逮捕場所はY株式会社事務所であり、乙のロッカーは、その事務所内にある以上、同一の管理権の範囲内の場所にある。したがって、「逮捕の現場」にあたる。

 次に、捜査を行なったのは乙の逮捕の直後であり、逮捕との時間的近接性が認められるから、「逮捕する場合」にあたる。

 したがって、捜索は、現行犯逮捕に伴う捜索としての適法となる。

 

3Kが、マスターキーを使ってロッカーを解錠した行為は適法か。

 捜索・差押えの目的を達成するために必要かつ相当な処分は「必要な処分」(2221項、1111項)として許容されるところ、ロッカーを乙が解錠しない以上、Kが解錠する必要性が認められ、鍵を壊すよりも穏当であるから、相当性もある。

 したがって、適法である。

 

2 設問2

 裁判所は、単独犯の訴因で、共同正犯の事実を認定しているところ、訴因と認定事実にずれが生じている。かかる認定は、不告不理の原則に反し、違法ではないか。訴因変更の要否が問題となる。

 ここで、審判対象は、検察官の主張する具体的犯罪事実たる訴因(訴因対象説)であるから、事実に変動があれば訴因変更が必要と考える。(事実記載説)

 そこで、まず審判対象画定に必要な事実に変動があった場合に訴因変更が必要であり、次に被告人の防御にとって重要な事実の変動は、それが訴因に明示された以上、原則として、訴因変更が必要となる。ただし被告人の防御の具体的状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものでなく、かつ、認定事実が訴因と比べて被告人にとり不利益であるといえない場合には、例外的に訴因変更は不要となる。45

 本件をみると、単独犯と共同正犯は、同一構成要件内の行動態様の違いがあるに過ぎないとも思える。しかし、共同正犯は、それを定める規定により初めて処罰されるし、適用する罰条に、刑法60条が加わる。そこで、共謀の事実は「罪となるべき事実」そのものであり、単独犯から共同正犯の変更は、審判対象画定に必要な事実の変動といえる。

 したがって、訴因変更が必要となる。

 よって、訴因変更を経ない上記の認定は、違法となる。

以上

事例演習刑事訴訟法【設問11】解答例 おとり捜査

 警察官Kは、SをしてXに対して覚せい剤の注文をさせ、X覚せい剤を所持してホテルに現れたところを現行犯逮捕している。かかる捜査手法は、いわゆるおとり捜査として違法ではないか。

1 まず、上記捜査は強制処分にあたるか。

 「強制の処分」(1971項但書)とは、強制処分法定主義と令状主義(憲法35条、2181)による二重の制約に服させる必要があるほどの人権侵害のおそれが高い処分であると解すべきである。そのように解さないと、捜査の柔軟性を害するからである。そこで、「強制の処分」とは、個人の明示又は黙示の意思に反し、重要な権利利益を制約する処分をいうと考える。

 本件をみると、たしかに犯行を行うように働きかけられてはいるが、犯行の意思決定自体はX自身が行なっているのだから、Xの意思に反するものとはいえない。

 したがって、強制処分には当たらない。

2 もっとも、捜査機関が犯罪を実行させるように働きかける活動であることから、何らかの法益を侵害するおそれがあるため、捜査比例の原則(1971項本文)は厳格に適用される。

 そこで、少なくとも、直接の被害者がいない薬物犯罪等の捜査において通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難である場合に機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象に、おとり捜査を行うことは、1971項に基づく任意捜査として許容される。

 本件をみると、X覚せい剤取締法違反の嫌疑がかけられていおり、直接の被害者がいない薬物の捜査に当たる。また、Kは、Xの現在の住所や立ち回り先、覚せい剤の隠匿場所を捜査したが、これを把握できていないから、通常の捜査方法のみでは、不法所持や密売の証拠を収集し、犯罪を摘発することが困難といえる。さらに、X覚せい剤十キログラムの大口売却先を探しているという確度の高い情報が得られているから、Xは機会があれば覚せい剤の密売を行う意思があったと考えられる。

 したがって、上記捜査は、任意捜査として許容される。

 よって、上記捜査は、適法である。

以上

事例演習刑事訴訟法【設問9】解答例

 Kは、捜索差押許可状のないまま、X方の捜索を実施し(以下、「本件捜索」という。)、天秤等を差し押さえている(以下、「本件差押え」という)が、捜索・差押えにあたっては、原則として、捜索差押許可状(憲法35条、2181項)が必要である。そこで、本件捜索・差押えが、逮捕に伴う捜索・差押え(2201項)の要件を満たせば、無令状で行うことは適法となる。

 逮捕に伴う捜索・差押え(2201項)が、令状主義(憲法35条)の例外として許容される根拠は、逮捕の現場には、被疑事実に関する証拠の存在する蓋然性が高いことから、これを保全する必要性が高いこことにある。そして、かかる根拠から、「逮捕の現場」とは、逮捕場所と同一の管理権の及ぶ範囲内の場所及びそこにある物をいう。また、「逮捕する場合」とは、単なる時点よりも幅のある、逮捕するをいうのであり、逮捕との時間的接着性を必要とするが、逮捕着手時の前後関係は問われない。

1 本件捜索について

1 本件捜索は、Xを現行犯逮捕(213条)をしたことに引き続いて行われたものであるから、逮捕との時間的接着性が認められる。したがって、「逮捕する場合」にあたる。

2 Kは、X方の応接間において、Xを現行犯逮捕しているところ、X方の各部屋は、逮捕場所と同一の管理権の及ぶ範囲といえるから、「逮捕の現場」に当たる。

 したがって、本件捜索は、逮捕に伴う捜索として、適法となる。

2 本件差押えについて

1 本件差押えは、上述と同様に、「逮捕する場合」に、「逮捕の現場」で行われたといえる。

2 そして、上記の逮捕に伴う捜索・差押えが許容される根拠から、逮捕に伴う差押えの目的物は、逮捕の基礎となった被疑事実との関連性を有するものであることが必要となる。

 本件をみると、Xは、覚醒剤所持の被疑事実により現行犯逮捕されている。そして、天秤は、覚醒剤の使用にあたって、その使用量を調整するために用いられるものであることから、X覚醒剤を所持していたことを推認させるものとして、被疑事実との関連性が認められる。同様に、注射器は、覚醒剤を体内に入れるために用いられるものであり、ビニール袋は、覚醒剤を保管し持ち運ぶために用いるものであるから、被疑事実との関連性が認められる。

 したがって、いずれの差押え目的物も、被疑事実との関連性が認められる。

3 よって、本件差押えは適法となる。

以上